コーチングの質問技法|オープン・スケーリング・ソクラテス式まで
コーチングの質問技法は、目的ごとに使い分ける道具です。視野を広げる、状態を数値にする、例外を探す、根拠を検討する——それぞれ効く場面が違い、型をなぞるだけでは尋問になります。
技法の前に — 何のために使い分けるのか
質問技法は、それぞれ「注意をどこに向けるか」が違う道具です。視野を広げたいのか、現在地を確かめたいのか、すでにある資源を見つけたいのか。目的が決まれば、選ぶ技法も決まります。
以下、10の技法を「使う場面/質問例/注意点」の順で整理します。技法名は覚えなくても構いません。目的と質問文が結びついていれば十分です。
基本の質問 — 開くか、閉じるか、広げるか
まずは土台になる2つです。特別な場面を選ばず、どんな会話でも使えます。
① オープン質問とクローズド質問
使う場面 — オープンは、相手に考えを広げてほしいとき。クローズドは、事実を確認するときや、話をまとめて合意を取るとき。
質問例
- オープン:「この件について、どう考えていますか?」「何が起きていますか?」
- クローズド:「その締切は来週の金曜で合っていますか?」「今日はこのテーマで進めてよいですか?」
注意点 — クローズドが悪いわけではありません。事実確認をオープンでやると話が散らかりますし、セッションの合意を取る場面ではクローズドのほうが親切です。問題になるのは、考えてほしい場面でクローズドを使うことです。「大丈夫?」への答えはほぼ「大丈夫です」になります。用語としての整理は用語集にもまとめています。
② 拡大質問(チャンクアップ/ダウン/横展開)
使う場面 — 話が抽象的すぎて動けないとき、または具体的すぎて視野が狭いとき。
質問例
- チャンクアップ(抽象度を上げる):「それができると、何が得られますか?」「つまり、目指しているのはどういう状態ですか?」
- チャンクダウン(具体化する):「具体的には、どんな場面でそう感じますか?」「最初の1週間で何をしますか?」
- 横展開(同レベルで広げる):「他にはどんな例がありますか?」「似た状況を経験したことはありますか?」
注意点 — 相手が抽象で語っているときに抽象で返すと、話が浮いたまま終わります。逆に、まだ意味づけができていない段階で具体化を急ぐと、やることリストだけが残ります。いま相手がどの高さにいるかを見てから、上げるか下げるかを決めます。
解決志向の質問技法 — 原因を掘らずに前へ進める
解決志向アプローチは、「なぜそうなったか」ではなく「どうなりたいか」「すでに何が機能しているか」に焦点を当てます。原因が特定できなくても前に進める点が実務では扱いやすいところです。
③ スケーリング・クエスチョン
使う場面 — 状態が言葉にしづらいとき、進捗を確認したいとき、次の一歩を小さく設定したいとき。解決志向アプローチで広く使われます。
質問例
- 「理想の状態を10点、まったくダメな状態を0点とすると、いまは何点ですか?」
- 「その点数の理由は何ですか?(=なぜ0点ではないのか)」
- 「1点上げるとしたら、何が起きていますか?」
注意点 — 点数そのものより、点数の理由と1点分の差に価値があります。「4点」と答えた人には、「なぜ3点ではなく4点なのか」を聞くと、すでに機能している資源が出てきます。いきなり10点を目指させないこと。1点分の変化は、行動に落としやすいサイズです。
④ ミラクル・クエスチョン
使う場面 — 問題ばかりに焦点が当たり、望む状態が描けていないとき。解決志向ブリーフセラピーで開発された問いです。
質問例
- 「今夜眠っている間に奇跡が起きて、この問題が解決したとします。朝起きたとき、最初に何を見て気づきますか?」
- 「まわりの人は、あなたの何を見て『何か変わった』と気づくでしょう?」
注意点 — 唐突に使うと相手が戸惑います。十分に話を聞いたあとで、ゆっくり導入するのが基本です。また、深刻な状況にある相手に対して安易に使うと、現実を軽く扱われたと受け取られることがあります。問題を否定するためではなく、望む状態の解像度を上げるために使うものです。
⑤ 例外探しの質問
使う場面 — 「いつもうまくいかない」と語られているとき。原因分析に入る前に試す価値があります。
質問例
- 「その問題が起きなかったのは、どんなときですか?」
- 「少しでもうまくいっていたときは、何が違いましたか?」
- 「そのとき、あなたは何をしていましたか?」
注意点 — 「うまくいったこともあるでしょう」と促すと、反論として受け取られます。相手の困難を認めたうえで、事実として探す姿勢が要ります。例外が見つからない場合は無理に探さず、別の技法に切り替えます。
考えを検討する質問 — ソクラテス式
⑥ ソクラテス式質問
使う場面 — 本人の思い込みや自動的な考えを、本人自身が検討したいとき。認知行動アプローチで用いられます。
質問例
- 「そう考える根拠は何ですか?」
- 「そうではない可能性を示す事実(反証)はありますか?」
- 「同じ状況の友人がそう言っていたら、何と伝えますか?」
- 「その考えを持ち続けると、どんな影響がありますか?」
注意点 — この技法は最も詰問化しやすいものです。答えを持って問い詰めると、論破になります。目的は相手を負かすことではなく、相手が自分の考えを一歩引いて眺められるようにすることです。もともとは訓練を受けた専門家が治療関係の中で使う技法であり、日常で使う場合は口調と関係性への配慮が前提になります。
時間と前提を動かす質問
行き詰まりの多くは、「いま・ここ・この条件」に視野が固定されていることから生まれます。時間軸か前提のどちらかを動かすと、同じ材料から違う案が出てくることがあります。
⑦ 未来質問/過去質問
使う場面 — 未来質問は、視点を前に向けたいとき。過去質問は、すでに持っている経験や資源を掘り起こしたいとき。
質問例
- 未来:「1年後、この件がうまく片づいているとしたら、どんな状態ですか?」「3年後の自分は、今日の判断を何と言うでしょう?」
- 過去:「似たことを乗り越えた経験はありますか?」「そのとき、何が助けになりましたか?」
注意点 — 過去質問は、原因追及(「なぜあのときやらなかったのか」)とは別物です。資源を探すために過去を見るのか、責任を探すために見るのかで、相手の受け取り方はまったく変わります。
⑧ 仮定質問
使う場面 — 制約に縛られて選択肢が出てこないとき、「わかりません」で止まったとき。
質問例
- 「もし制約がまったくないとしたら、何を試しますか?」
- 「もし答えを知っているとしたら、何と言いますか?」
- 「もし失敗しても構わないとしたら、どうしますか?」
注意点 — 「わかりません」への対応として有効ですが、連発すると現実感を失います。仮定で出てきた案は、必ず現実の条件に戻して検討します。「いまの状況で、その一部だけやるとしたら?」と接続するのが実務的です。
方向を確かめる質問と、問わないという技法
⑨ 価値の質問(ACT)
使う場面 — 目標が他人からの期待でできているように見えるとき、行動が続かないとき。ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)では、価値が行動の方向を決めるものとして扱われます。
質問例
- 「本当は、何を大切にしたいですか?」
- 「それが実現している状態を、どんな人でありたいかという言葉で表すと?」
- 「その大切にしたいことに沿った一歩は、今週なら何ですか?」
注意点 — 価値は目標とは違います。目標は達成して終わりますが、価値は方向であって終わりません。また、価値を問うのは深い層の問いです(→質問の7階層モデル)。関係ができていない段階で持ち出すと、相手は答えを用意できません。
⑩ 沈黙
使う場面 — 相手が考え始めたとき。答えが返ってこないとき。
やり方 — 質問したあと、3〜5秒は言葉を足さないこと。言い換えたり、選択肢を提示したりして沈黙を埋めない。相手が視線を外して考えている間は、待ちます。
注意点 — 沈黙にも種類があります。考えている沈黙と、質問の意味がわからず困っている沈黙は違います。表情が固まっている、視線が合わないまま長く続く場合は、「いまの質問、わかりにくかったかもしれません」と言い直すほうが親切です。待つことと放置することは別です。
技法に頼りすぎる危険
ここまで10の技法を並べましたが、最後に重要な但し書きがあります。
型をなぞると尋問になります。 オープンで聞いて、スケーリングで点数を出させて、例外を探して、行動を決めさせる。この流れを手順として実行すると、相手は「処理されている」と感じます。技法は、相手の話を受け取った結果として自然に選ばれるものであって、順番に消化するものではありません。
技法より関係の質が結果を左右するという指摘は、コーチングの研究で繰り返し出てきます。どの技法を使うかよりも、信頼関係があるか、本人が自分で決めている感覚があるか、目標が具体的かのほうが大きく影響すると報告されています。
そして、質問には避けたい形があります。技法の名前がついていても、誘導や詰問として機能していれば同じことです(→NG質問大全)。迷ったときは、質問を足すより、いま出てきた言葉をもう一度聞き直すほうが安全です。
- オープンとクローズドは優劣ではなく用途の違い。事実確認や合意を取る場面ではクローズドのほうが適する
- スケーリングは状態を0〜10点で数値化する技法。「1点上げるには」と問い、小さく実行できる行動を引き出す
- 解決志向のミラクル・クエスチョンと例外探しは、原因を掘らずに望む状態とすでにある資源へ焦点を移す
- ソクラテス式質問は認知行動アプローチ由来で、根拠と反証を本人に検討してもらう。詰問化しやすい点に注意
- 沈黙も技法のひとつ。3〜5秒埋めずに待つことで、本人の言葉が出てくる余地が生まれる。放置とは違う
よくある質問
技法はいくつ覚えればいいですか?
数より、確実に使えるものが2〜3個あるほうが実用的です。おすすめは、オープン質問・スケーリング・例外探しの3つです。この3つで、状況の把握・現在地の確認・すでにある資源の発見という基本の流れがひととおり回ります。慣れてきたら、扱うテーマに合わせて仮定質問やソクラテス式を足していく順番が無理がありません。
ソクラテス式質問は素人が使っても大丈夫ですか?
慎重に扱ってください。ソクラテス式質問はもともと認知行動療法の中で、訓練を受けた実践者が治療関係のもとで用いる技法です。根拠を問う形は、使い方を誤ると詰問になります。日常の対話で使うなら、相手が自分の考えを検討したいと望んでいる場面に限り、口調と関係の質に注意を払うことが前提です。強い落ち込みや不安がある状態では、専門家の支援が優先されます。
質問技法を使うと会話が不自然になります。どうすればいいですか?
多くの場合、技法を使う前の傾聴が足りていないことが原因です。相手の話をひととおり受け取る前に問いを重ねると、質問リストを読み上げているような会話になります。ひとつ質問したら、返ってきた言葉をそのまま繰り返す、要約して返す、といった応答を挟んでみてください。それだけで、次の質問が自然な位置に置けるようになります。
参考文献
- Whitmore, J. (2017). Coaching for Performance (5th ed.). Nicholas Brealey Publishing.
- de Shazer, S., & Dolan, Y. (2007). More Than Miracles: The State of the Art of Solution-Focused Brief Therapy. Haworth Press.
- Berg, I. K., & Szabo, P. (2005). Brief Coaching for Lasting Solutions. W. W. Norton & Company.
- Beck, J. S. (2020). Cognitive Behavior Therapy: Basics and Beyond (3rd ed.). Guilford Press.
- Hayes, S. C., Strosahl, K. D., & Wilson, K. G. (2011). Acceptance and Commitment Therapy: The Process and Practice of Mindful Change (2nd ed.). Guilford Press.
- Grant, A. M. (2012). An integrated model of goal-focused coaching: An evidence-based framework for teaching and practice. International Coaching Psychology Review, 7(2), 146-165.
