1on1で使える質問とテーマ|部下への声のかけ方
1on1は上司が状況を把握するための報告の場ではなく、部下が自分の考えを整理し、次の一歩を決めるための時間です。進捗確認は別の場に切り出し、この時間は「聞くこと」に使うと機能しやすくなります。
1on1は誰のための時間か
1on1は、上司が部下の状況を把握するための報告の場ではありません。部下が自分の考えを整理し、次の一歩を決めるための時間です。ここを取り違えると、名前だけ1on1の進捗確認会議になります。
判断の目安はシンプルです。会話が終わったあと、得をしたのはどちらかを振り返ります。上司の情報が増えただけなら、それは報告です。部下の頭の中が整理されていたなら、1on1として機能しています。
時間配分でいえば、上司が話す時間は全体の3割以下が目安とされます。残りの7割は、聞くこと、そして考える間を渡すことに使います。
話すテーマの6つの型
毎回ゼロから話題を探すと続きません。テーマを型でもっておくと、その日の状態に合わせて選べます。
| 型 | 扱うこと | 入り口の質問 |
|---|---|---|
| 近況 | いま何に時間を使っているか | 「今週、いちばん時間を使った仕事は何でしたか」 |
| 手応え | 仕事の充実感・納得感 | 「最近、手応えを感じた場面はありましたか」 |
| 障害 | 詰まっていること・困りごと | 「いま、いちばん引っかかっているのは何ですか」 |
| キャリア | 中長期の方向・関心 | 「これから、どんな仕事に時間を使いたいですか」 |
| 関係 | チーム内の連携・やりにくさ | 「連携していて、やりにくさを感じる場面はありますか」 |
| サポート | 上司・組織にできること | 「私にできることで、助かることはありますか」 |
毎回すべてを扱う必要はありません。1回につき1〜2つの型で十分です。キャリアの話は四半期に1回、といった頻度で回す運用もよく使われます。
時間配分の目安(30分の場合)
- 冒頭 5分:入りやすい話題で場をあたためる
- 中盤 20分:その日のテーマを1〜2つ、深く扱う
- 終盤 5分:次の一歩と、上司側の支援を確認する
冒頭で業務報告に入ってしまうと、そのまま最後まで報告で終わります。最初の5分を業務以外の話に使うと決めておくと、切り替わりやすくなります。
場面別に使える質問
冒頭で使う質問(入りやすさ重視)
- 今週、いちばん時間を使った仕事は何でしたか。
- 最近、少しでも手応えを感じた場面はありましたか。
- 今日はどんなことを話せると、この30分が有意義になりそうですか。
- 前回話したことで、その後どうなったか教えてもらえますか。
3つ目はアジェンダを本人に渡す質問です。上司が議題を決めるのをやめると、1on1の主語が変わります。
中盤で使う質問(深める)
- その仕事のどこがいちばん難しかったですか。
- うまくいった場面と、うまくいかなかった場面で、何が違いましたか。
- いま、いちばん困っているのはどんなことですか。
- その状況を、どう捉えていますか。
- もし制約がなかったら、本当はどうしたいですか。
- ほかにどんなやり方が考えられそうですか。
- 半年後、どんな状態になっていたら「よかった」と思えそうですか。
- その中で、自分で決められる部分はどこですか。
9と10は選択肢を広げる質問です。答えがすぐ出なくても構いません。考える時間そのものに意味があります。
終盤で使う質問(次につなぐ)
- ここまで話してみて、何か整理されたことはありますか。
- 次に試してみるとしたら、何から始めますか。
- それを進めるうえで、私にできることはありますか。
- 次回までに、どこまで進んでいたら十分ですか。
13は振り返りを本人にさせる質問です。上司がまとめてしまうと、上司の解釈が結論になります。
場面や目的から質問を引きたいときは質問大全をご覧ください。
避けたい聞き方と、その言い換え
| 避けたい聞き方 | 何が起きるか | 言い換え |
|---|---|---|
| 「あの件、進んでる?」 | 進捗報告会になる | 「あの件、どこまで進みましたか。詰まっているところはありますか」 |
| 「なんでできなかったの?」 | 言い訳を探させる。詰問になる | 「何があれば、進められそうでしたか」 |
| 「それはこうしたほうがいいよ」(冒頭で) | 本人が考えるのをやめる | 「その状況を、あなたはどう見ていますか」 |
| 「大丈夫だよね?」 | 「大丈夫です」しか返せない | 「不安が残っているとしたら、どのあたりですか」 |
| 「やる気ある?」 | 人格への評価と受け取られる | 「この仕事で、やりにくさを感じている部分はどこですか」 |
| 「普通はこうするよね」 | 反論できない前提を置く | 「ほかにどんなやり方が考えられそうですか」 |
共通しているのは、答えを先に持っている質問は質問ではないという点です。アドバイスを言いたくなったら、まず「言ってもいいですか」と断ってから伝えると、押しつけになりにくくなります。避けたい聞き方の型はNG質問大全にまとめています。
沈黙と「特にありません」への対応
沈黙は失敗ではありません。多くの場合、相手が考えている時間です。3〜5秒の沈黙で言葉をかぶせてしまうと、考える機会そのものを奪います。まずは待つ。それでも出てこないときに、言い方を変えます。
「特にありません」と返ってきたときは、次の順で対応すると動きやすくなります。
- 粒度を下げる:「最近どう?」→「今週の会議で、やりにくかった場面はありましたか」
- 時間を区切る:「この1週間で」「昨日の打ち合わせで」と範囲を狭める
- 選択肢を出す:「仕事の進め方、チームとの連携、これから先のこと。今日はどれが話しやすいですか」
- 引くことも選ぶ:話題がなければ、上司側の情報共有に切り替えて短く終える
4は消極的な選択に見えますが、無理に引き出そうとしないこと自体が安全のサインになります。毎回30分を埋めなければならない、という前提は捨てて構いません。
頻度と継続のコツ
- 短く、頻繁に。 60分を月1回より、30分を隔週のほうが話題が具体的になります。
- 予定を動かさない。 上司都合のリスケが続くと「優先度が低い」というメッセージになります。
- 記録は最小限に。 本人の同意なく詳細を残さない。評価資料に流用しないことを明言します。
- 話さないと決めたことを守る。 1on1で聞いた内容を他所で持ち出さない。これが崩れると回復に時間がかかります。
- 上司側も振り返る。 「今日は自分が何割話したか」を毎回メモするだけでも配分は変わります。
心理的安全性・エンゲージメントとの関係
チームの学習行動に関する研究では、対人的なリスクを取っても罰せられないという共有された信念(心理的安全性)が、率直な発言や失敗の報告と関連することが報告されています。1on1はこの信念を日々の運用に落とす場のひとつと位置づけられます。
また、上司のコーチング的なかかわりと、部下の職務満足やパフォーマンスとの正の関連を報告した研究もあります。自己決定理論の枠組みからは、自律性・有能感・関係性が満たされるほど動機づけが内発的になると説明されます。
ただし、これらは「1on1をやれば数値が上がる」ことを示したものではありません。多くは相関を扱った研究であり、因果の方向や、日本の職場文脈への当てはまりについては慎重に見る必要があります。研究の読み方は研究・エビデンスで整理しています。
1on1がうまくいかない構造的な理由と限界
1on1が機能しにくいのには、進め方以前の理由があります。
評価者と被評価者の非対称性は消えません。 昇給・査定に影響を与える人の前で、弱みや迷いを完全に開示するのは合理的ではありません。「本音を話してほしい」と伝えるほど、かえって話しにくくなることもあります。この非対称性は、質問の技術では解消できません。
上司自身が余裕を失っている場合、傾聴は成立しません。 疲れている状態で30分聞き続けるのは難しく、無理をすると形だけの相づちになります。それは相手に伝わります。
制度として全社導入されると、目的が「実施率」にすり替わります。 実施したかどうかが管理される一方で、中身は測れません。結果として、埋めやすい進捗確認に流れます。
現実的な対処は、1on1に期待しすぎないことです。処遇への不満や上司自身への不満は、別のルート(人事面談、斜め上の先輩、外部のコーチ)を用意しておく。1on1で扱えるのは、本人が自分で動かせる範囲の話だと割り切ると、かえって話が進みます。
なお、部下の心身の不調が疑われる場面では、1on1で扱おうとせず、産業医や相談窓口など専門機関につなぐことが優先されます。
- 1on1の主語は部下。上司が話す時間は全体の3割以下を目安にする
- 話すテーマは近況・手応え・障害・キャリア・関係・サポートの6つの型で整理できる
- 冒頭は入りやすい質問、中盤は深める質問、終盤は次につなぐ質問と役割を分ける
- 「特にありません」は拒否ではなく、話題の粒度が大きすぎるサインであることが多い
- 評価者が同席する非対称性は消えない。1on1だけで解決できないことがある前提で運用する
よくある質問
1on1は何分くらいが適切ですか?
実務では30分前後を隔週から週1回で設定する例が多いようです。長さそのものより、予定どおり実施されることのほうが影響が大きいと言われます。60分を月1回にするより、30分を隔週にしたほうが話題が具体的になりやすい、という声もよく聞かれます。まずは短く始めて、必要に応じて延ばすほうが続きます。
部下が何も話してくれません。どうすればいいですか?
多くの場合、意欲の問題ではなく話題の粒度が大きすぎることが原因です。「最近どう?」は答える範囲が広すぎて答えにくい質問です。「今週いちばん時間を使った仕事は何でしたか」のように、範囲を狭めて事実から入ると答えやすくなります。それでも話が出ないときは、無理に引き出さず、上司側の情報共有に切り替えるほうが関係を損ないません。
進捗確認を1on1でしてはいけないのですか?
してはいけないわけではありませんが、進捗確認だけで終わると1on1である意味がなくなります。進捗はチャットや定例会議でも確認できます。1on1でしか扱えないのは、数字に出ない詰まりや、迷い、キャリアの話です。進捗に触れるなら冒頭の数分にとどめ、残りを本人の話に使う配分をおすすめします。
評価者である上司が本音を聞き出すのは無理ではありませんか?
完全には無理だ、と考えておくのが誠実です。評価権をもつ人の前で話せることには限界があります。だからこそ、1on1で扱わない領域(処遇への不満、上司自身への不満など)を別のルート、たとえば斜め上の先輩や人事の面談、外部のコーチに用意しておくことが現実的です。1on1を万能の場にしようとしないほうが、かえって機能します。
参考文献
- Edmondson, A. C. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350-383.
- Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2000). The "what" and "why" of goal pursuits: Human needs and the self-determination of behavior. Psychological Inquiry, 11(4), 227-268.
- Ellinger, A. D., Ellinger, A. E., & Keller, S. B. (2003). Supervisory coaching behavior, employee satisfaction, and warehouse employee performance. Human Resource Development Quarterly, 14(4), 435-458.
- Theeboom, T., Beersma, B., & van Vianen, A. E. M. (2014). Does coaching work? A meta-analysis on the effects of coaching on individual level outcomes in an organizational context. The Journal of Positive Psychology, 9(1), 1-18.
