過去に似た状況を、どう乗り越えましたか?
この質問のねらい
行き詰まっているとき、人は自分を「対処できない人」として語ります。しかし、いま話しているということは、過去の困難は何らかの形で通過してきたということでもあります。
この質問は、その通過の仕方を事実として取り出します。感想でも教訓でもなく、実際に何をしたかを聞くのが要点です。出てきた方法は、精神論ではなく本人の実績なので、次の場面でも再利用の候補になります。深さ1の事実レベルの質問で、答えるのに解釈を必要としません。
使いどころ
- 「どうしたらいいかわからない」で話が止まっているとき
- 本人が自分を無力に語っているとき
- 対処の選択肢を、外から提案する前に確認したいとき
扱いには条件があります。信頼関係ができていない段階では聞かないでください。 過去の困難に触れる問いであり、状況によっては痛みを伴います。聞くときは「話したくなければ大丈夫です」を添えてください。
つらい過去を無理に語らせないこと、掘り起こすこと自体を目的にしないことが原則です。出来事の詳細ではなく、そのとき何をしたかに焦点を絞れば、痛みに深く踏み込まずに済みます。不安や落ち込みが強く、日常生活に支障が出ている場合は、コーチングの範囲を越えます。医療や心理の専門家につなぐことが優先されます。
言い方のバリエーション
- 「詳しい話は結構ですので、何をしたかだけ教えてもらえますか?」(範囲を限定する)
- 「そのとき、最初に取った行動は何でしたか?」(一手だけ聞く)
- 「誰に相談しましたか?」(支えの存在に焦点を当てる)
- 「似た状況の人を見てきた経験でも構いません」(自分の体験に限定しない)
背景にある考え方
解決志向のアプローチでは、問題の原因を分析するより、すでに機能している対処(コーピング)を探すことに重点を置きます。「よく持ちこたえていますね、どうやって?」と尋ねるコーピング・クエスチョンはその代表例です。
レジリエンスの研究では、回復力は個人の資質だけでなく、周囲の支えや環境要因に支えられていると報告されています。したがって、この質問で「誰の助けがあったか」まで聞けると、本人の努力に還元しすぎずに済みます。Bandura の指摘するとおり、過去の達成経験は次の行動の見通しを支えますが、それを本人一人の手柄にしないほうが現実に即しています。
階層1・事実 何が起きたのかを共有する。前提をそろえる層。
- そのとき、誰かの助けはありましたか?
- 同じ方法は、いまも使えそうですか?
- 逆に、効かなかった方法はありましたか?
