目標設定理論(Goal-Setting Theory)
具体的で困難な目標のほうが、漠然とした目標や「ベストを尽くせ」より高い成果につながるとする理論。ただし成立には条件があるとされます。
どういう意味か
Edwin A. Locke と Gary P. Latham が半世紀にわたる実証研究を積み重ねて構築した理論です。中心となる主張は明快で、具体的で困難な目標は、漠然とした目標や「できるだけ頑張る」よりも高い成果と結びつくと報告されています。
「頑張る」が効きにくいのは、達成基準がないためです。どこまでやれば十分かが決まっていないと、その日の気分が基準になります。目標が具体的であるほど、努力の方向と量、そして「まだ足りない」という判断が自分でできるようになります。
困難さについては、能力の範囲内であれば難易度と成果は比例的に高まる傾向が示されてきました。ただしこれは無条件の主張ではありません。
効果が成立する条件
理論では、目標が成果につながるために必要な条件(モデレーター)が整理されています。実務ではここが最も重要な部分です。
| 条件 | 内容 | 欠けたときに起きること |
|---|---|---|
| 能力 | 課題に必要な知識・技能があるか | 難しい目標が空回りする |
| コミットメント | 本人がその目標を引き受けているか | 形だけの目標になる |
| フィードバック | 進み具合がわかるか | 修正できないまま進む |
| 課題の複雑さ | 複雑な課題では戦略の学習が先に必要 | 焦りだけが増える |
特にコミットメントは、コーチングの中心的な関心になります。上から与えられた数字は、本人が引き受けていなければ機能しにくいことが指摘されています。与える形をとる場合でも、理由の説明と本人の納得が伴うかどうかで結果が変わるとされます。
また、複雑で新規性の高い課題では、成果目標よりも学習目標(何をできるようになるか)のほうが適することが報告されています。やり方がまだ分からない段階で数値目標を課すと、焦りが試行錯誤を妨げるという説明です。
質問例
- 「その目標は、誰が決めたものですか?」
- 「いまの力量から見て、少し背伸びが必要な水準はどのあたりですか?」
- 「進んでいるかどうかを、どのタイミングで確かめられますか?」
- 「やり方がまだ分からない部分は、どこですか?」
4つ目の問いは、成果目標と学習目標を切り分けるためのものです。ここが曖昧なまま数値を決めると、条件が揃わない目標になります。
注意点
目標には副作用があります。 目標に含まれない行動が手薄になる、短期の数値のために長期の関係を損なう、達成を優先して手段を選ばなくなる——こうした問題は、目標設定研究の側からも批判的に検討されてきました。
コーチングで扱う場合は、数値目標と並べて「その目標が何のためにあるのか」を確認する時間を必ず取ってください。目標は達成すれば終わりますが、その背後にある方向は終わりません。
なお、報告されている効果の大きさは課題や状況によって幅があります。特定の数値を持ち出して断定的に語るのは避けるのが妥当です。
参考文献
- Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a practically useful theory of goal setting and task motivation: A 35-year odyssey. American Psychologist, 57(9), 705-717.
- Locke, E. A., & Latham, G. P. (2019). The development of goal setting theory: A half century retrospective. Motivation Science, 5(2), 93-105.
