SMART(目標設定)(SMART Goals)
目標をSpecific・Measurable・Achievable・Relevant・Time-boundの5要素で点検する枠組み。曖昧な願望を、実行できる形へ翻訳するために使われます。
5つの要素
もとは経営の目標記述法として1981年にDoranが提案したもので、頭文字の対応語には複数の版があります。コーチングでは次の形で使われることが多い枠組みです。
| 文字 | 観点 | 点検する問い |
|---|---|---|
| Specific | 具体的か | 誰が、何を、どうするのか |
| Measurable | 確かめられるか | 何をもって「できた」とするか |
| Achievable | 手が届くか | いまの状況で現実的か |
| Relevant | 意味があるか | 何のためにやるのか |
| Time-bound | 期限があるか | いつまでにやるのか |
コーチングでどう使うか
SMARTの実用的な価値は、願望と目標を分けるところにあります。「もっとコミュニケーションを良くしたい」は方向であって目標ではありません。ここに5つの観点を当てると、「今月中に、チームの3人と15分ずつ話す時間をとる」といった形に翻訳されます。
ただし、いきなり5要素すべてを埋めさせると尋問になります。実務では、詰まっている要素を1つか2つだけ扱うほうが会話が進みます。多くの場合、詰まるのは Measurable ではなく Relevant(何のために)のほうです。
質問例
- 「それができたとき、何を見たら『できた』とわかりますか?」
- 「その目標は、何のためにやるものでしたか?」
- 「いまの仕事量のまま、無理なく入る大きさになっていますか?」
- 「期限を決めるとしたら、いつが現実的ですか?」
2つ目の問いは Relevant を扱うものですが、答えが出ない場合は目標の大きさを直す前に、価値(バリュー)の側から話し直したほうが早いことがあります。
限界と注意点
測れることに偏る——これがSMARTの最も知られた限界です。数値化しやすい行動が目標として選ばれ、数値化しにくいが重要なこと(信頼を築く、丁寧に聴く)が後回しになりやすくなります。「訪問件数」は測れますが、「関係の質」は測りにくい、という非対称がそのまま目標に反映されてしまいます。
もうひとつは Achievable の扱いです。目標設定理論では、能力とコミットメントの条件が満たされる範囲では、困難で具体的な目標のほうが高い成果につながると報告されています。「達成可能」を安全圏に縮める言い訳に使うと、この効果を自ら手放すことになります。
また、SMARTは目標の書き方の枠であって、実行を保証するものではありません。決めた計画が実際に動くかどうかは、障害への備えが左右します。その部分は WOOP のような実行意図の枠組みが補います。
最後に、目標は達成すると終わりますが、価値は終わりません。SMARTだけで走り続けると、達成のたびに空白が生じます。目標の背後にある方向を、定期的に確認してください。
参考文献
- Doran, G. T. (1981). There's a S.M.A.R.T. way to write management's goals and objectives. Management Review, 70(11), 35-36.
- Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a practically useful theory of goal setting and task motivation. American Psychologist, 57(9), 705-717.
