ソクラテス式質問(Socratic Questioning)
相手の考えの根拠や別の見方を、答えを与えずに一緒に検討していく質問法。認知行動的なアプローチで、思い込みを本人が吟味し直す手続きとして用いられます。
どういう意味か
ソクラテス式質問は、認知行動的なアプローチで用いられてきた質問法です。相手が抱いている考えについて、「その根拠は何か」「反対の証拠はないか」「別の見方はできないか」を、答えを与えずに一緒に調べていく進め方を指します。
背景にあるのは、思い込みは説得では変わりにくい、という考え方です。「そんなことはありませんよ」と否定しても、本人の中では変わりません。自分で証拠を並べ直したときに、はじめて捉え方が動きます。
この分野では、目的を「相手の考えを変えること」ではなく「本人がまだ気づいていない情報に一緒にたどり着くこと(guided discovery)」と表現する議論があります。コーチとして使う場合も、この向きを守るかどうかが分かれ目になります。
質問例
段階に沿って組み立てると使いやすくなります。
- 「そう考える根拠になっている出来事は、どれですか?」
- 「逆に、それに当てはまらなかった場面はありましたか?」
- 「同じ状況にいる同僚がそう言ったら、あなたは何と声をかけますか?」
- 「いま出てきた両方を並べると、どんな言い方がいちばん実態に近そうですか?」
3つ目の「他人に置き換える」質問は、自分に厳しい人に対してよく機能します。自分には認めない基準を、他人には適用していることに本人が気づきます。
詰問との違い
形が似ているため、ソクラテス式質問はしばしば詰問と混同されます。違いは3点です。
| ソクラテス式質問 | 詰問 | |
|---|---|---|
| 答え | 質問者は持っていない | 質問者の中に決まっている |
| 目的 | 一緒に検討する | 認めさせる |
| 結果 | 本人の言葉が増える | 本人が黙る |
「その根拠は?」という同じ一文でも、こちらの中に「根拠なんてないはずだ」という答えがあれば、それは詰問です。相手は口調ではなく、その意図を敏感に読み取ります。答えを持ったまま質問する形は誘導質問に近づき、避けるべきものになります。
注意点
連続して使わないでください。 根拠を問う質問が続くと、検討ではなく反対尋問になります。1つ問うたら受け止め、要約を返してから次に進むくらいの間隔が適切です。
感情が強く動いている場面にも向きません。落ち込みや不安が強いときは、まず傾聴に徹し、考えを吟味するのは落ち着いてからにしてください。心身の不調が続く場合は、専門機関につなぐことを優先します。
参考文献
- Beck, J. S. (2020). Cognitive Behavior Therapy: Basics and Beyond (3rd ed.). Guilford Press.
- Padesky, C. A. (1993). Socratic questioning: Changing minds or guiding discovery? Keynote address, European Congress of Behavioural and Cognitive Therapies.
