行動変容ステージモデル(Transtheoretical Model / Stages of Change)
人の行動変容を前熟考・熟考・準備・実行・維持の段階でとらえるモデル。いま相手がどの段階にいるかによって、有効な働きかけが変わると考えます。
5つの段階
Prochaska と DiClemente が禁煙研究をもとに提唱した枠組みで、変化を「やるかやらないか」の二択ではなく、段階を移っていく過程としてとらえます。
| 段階 | 状態 | この段階でのテーマ |
|---|---|---|
| 前熟考 | 変える気がない・問題と思っていない | 情報と気づき |
| 熟考 | 変えたいが迷っている | 迷いの両側を扱う |
| 準備 | やると決めて準備している | 具体的な計画 |
| 実行 | 実際に行動している(おおむね6か月以内) | 続ける工夫と支え |
| 維持 | 行動が定着している | 後戻りへの備え |
段階は一方向に進むとは限らず、行き来することが前提になっています。後戻りは失敗ではなく過程の一部だ、という見方がこのモデルの実務的な価値です。
コーチングでどう使うか
使いどころは、働きかけを相手の段階に合わせるという一点に尽きます。準備段階の人には具体的な行動計画が役立ちますが、同じ問いを前熟考の人に投げると押しつけになります。
熟考段階では、迷いの片側だけを扱わないことが重要です。「変えたい理由」だけを聞くと、相手は無意識に反対側の理由を口にして自分を説得し直します。両側を並べて本人に眺めてもらうほうが、結果として前に進みやすくなります。
質問例
- 「いま、変えたい気持ちと変えたくない気持ちは、だいたい何対何くらいですか?」(熟考)
- 「変えないままでいることの良さは、どんなところにありますか?」(熟考)
- 「今週のうちに始められる、いちばん小さな一歩は何ですか?」(準備)
- 「うまくいかない週があるとしたら、どんな週になりそうですか?」(実行・維持)
最後の問いは、後戻りを前提として先に扱っておくためのものです。あらかじめ想定した人のほうが、実際につまずいたときに戻ってきやすいと言われます。
注意点
段階に合わない働きかけは逆効果になりやすいというのが、このモデルからの最大の実務的示唆です。前熟考の相手に行動計画を求めると、抵抗を強めるだけで終わることがあります。
一方で、段階を診断してラベルを貼る道具にしないでください。「この人は前熟考だから」と決めつけると、相手の中で起きている変化を見落とします。段階は本人の中で日によって動くものです。
また、このモデルは健康行動の分野を中心に発展した枠組みで、すべての領域で同じように当てはまるかについては議論があります。段階の区分の妥当性や介入効果の大きさをめぐる批判的な検討も報告されており、確定した法則としてではなく、会話の見取り図として使うのが妥当です。
参考文献
- Prochaska, J. O., & DiClemente, C. C. (1983). Stages and processes of self-change of smoking. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 51(3), 390-395.
- Prochaska, J. O., & Velicer, W. F. (1997). The transtheoretical model of health behavior change. American Journal of Health Promotion, 12(1), 38-48.
