価値(バリュー)(Values)
自分がどう在りたいか、どんな方向へ進みたいかを示す指針のこと。達成すると終わる目標とは異なり、行動し続けることでのみ体現される方向を指します。
目標との違い
コーチングで「価値」というとき、多くはACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)で整理された意味で使われます。Steven C. Hayes らによる整理では、価値は自分で選び取った、続いていく行動の方向とされます。
違いは、終わりがあるかどうかにあります。
| 目標 | 価値 | |
|---|---|---|
| 性質 | 到達点 | 方向 |
| 達成 | 達成すると終わる | 達成という概念がない |
| 例 | 資格に合格する | 学び続ける人でいる |
| 例 | 部下と月1回面談する | 人の話を丁寧に聴く |
よく使われるたとえが、西へ向かうことと、西の町に着くことの違いです。町に着けば旅は終わりますが、西へ向かうことは今日も明日も選び直せます。
この区別が実務で効くのは、目標が達成できなかったときです。目標だけで走っていると、届かなかった時点で立つ場所を失います。価値が見えていれば、別の目標に置き換えて同じ方向を進み続けられます。
コーチングでどう使うか
目標設定の前段として扱う場面と、行き詰まったときに立ち返る場面の2つがあります。とくに後者では、「そもそも何のためだったか」を思い出す作業が、次の一歩を決めるより先に必要になります。
価値を扱うときは、抽象的な単語をリストから選ばせるだけで終わらないでください。「誠実」「成長」といった言葉は誰でも選べます。その人にとってそれが具体的に何をすることなのかまで降りて初めて、行動と結びつきます。
質問例
- 「本当は、何を大切にしたいですか?」
- 「その『誠実』は、明日の仕事でいうと何をすることですか?」
- 「これまでで、自分らしくいられたと感じた場面を教えてもらえますか?」
- 「誰も見ていないとしても、続けたいと思えることは何ですか?」
3つ目は、抽象語ではなく体験から入る問いです。具体的な場面を語るなかに、その人の価値が現れます。4つ目は、他者の評価のためにやっていることと、自分の方向として選んでいることを分けるのに使えます。
注意点
価値を「立派なもの」として扱わないことが重要です。社会的に望ましい答えを求められていると感じると、本音ではない価値が出てきます。出てきた言葉が本人のものかどうかは、語るときの熱量や具体性で判断できることが多いようです。
また、価値と「〜すべき」を混同しないでください。「家族を大事にすべきだ」という義務感は、価値と似た形をしていますが出どころが違います。義務感から出た方向は、しばらく走ると重くなります。
価値を明確にする作業が、かえって「自分は価値に沿って生きられていない」という自己批判を招くことがあります。方向であって基準ではない、という前提を共有してから扱ってください。
参考文献
- Hayes, S. C., Strosahl, K. D., & Wilson, K. G. (2012). Acceptance and Commitment Therapy: The process and practice of mindful change (2nd ed.). Guilford Press.
- Harris, R. (2019). ACT Made Simple (2nd ed.). New Harbinger Publications.
